1. 市場環境と株主還元の変遷
総還元額(配当+自社株買い)と日経平均の相関
💰 2020-2025の変化点
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「還元」が経営の免罪符に
以前は「増配」だけでアクティビストを撃退できたが、2024年以降は「増配してもPBRが上がらなければ経営陣交代」という厳しい局面に。 -
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東証の圧力
「資本コストや株価を意識した経営」の要請により、企業側が先回りして「DOE採用」や「大規模自社株買い」を発表するケースが急増。
2. 提案内容の質的変化
株主提案は「金銭的要求」から「経営権への介入」へと進化しました。
3. 対話・闘争事例 詳細データベース
2020年以降の日本市場を変えた主要なケーススタディを網羅。
セブン&アイ・ホールディングス
ValueAct (過去) / Couche-Tard (買収提案) / 創業家 (MBO)
🔍 争点・背景
コンビニ事業(海外含む)は好調だが、祖業イトーヨーカ堂等のスーパーストア事業が低収益で足を引っ張る「コングロマリット・ディスカウント」。
Phase 1: ValueActの提案 (2022-2023)
「コンビニ事業への集中(スピンオフ)」を要求。社長退任を求める株主提案は否決されるも、構造改革圧力を高めた。
Phase 2: ACTによる買収提案 (2024)
カナダ大手クシュタールから全株買収提案。企業価値最大化か独立維持かが問われる局面に。
Phase 3: 創業家MBOによる防衛 (2024-25)
買収防衛及び構造改革のため、創業家と伊藤忠商事等が連携したMBO(9兆円規模)を検討中。
フジテック
Oasis Management (オアシス)
🔍 争点・背景
創業家による会社資金流用疑惑とガバナンス不全。オアシスは詳細な調査レポートを公開。
歴史的転換点:臨時株主総会
2023年2月、臨時株主総会にて会社提案の取締役候補が否決され、オアシス側の独自候補が選任される事態が発生。
→ その後、創業家会長は解任。「株主が経営陣をクビにできる」ことを証明した事例。
大日本印刷 (DNP)
Elliott Management (エリオット)
🔍 争点・背景
豊富な保有資産(リクルート株など)に対し、株価が割安に放置されていることを指摘。
スピード回答と株価急騰
DNP側は迅速に「3000億円規模の自社株買い」と「PBR1.0倍超の目標」を発表。
市場は好感し株価は過去最高値を更新。対立せず改革を進めた成功例。
サッポロHD / 東洋水産
3D Investment Partners
3Dインベストメントの戦略
シンガポール拠点の和製アクティビスト。徹底的な分析に基づく「事業改善提案」が特徴。
🍺 サッポロHDへの提案
不動産事業の切り出しを要求。聖域なき見直しを迫った。
🍜 東洋水産への提案
海外事業は高収益だが現預金を溜め込みすぎているとして、資本効率改善を要求。
4. MBO/LBOの増加とプレミアム分析
なぜMBO(非公開化)を選ぶのか?
アクティビスト回避(短期圧力からの解放)
四半期ごとの還元圧力に追われず、長期視点での構造改革を行うため。
上場維持コストの増大
管理コスト増(数億円規模)により、中堅企業にとって上場メリットが薄れている。
主要MBO事例とプレミアム
| 企業名 | 規模 | プレミアム |
|---|---|---|
| 大正製薬HD | 約7,100億円 | +50%超 |
| ベネッセHD | 約2,700億円 | +45%前後 |
| スノーピーク | 約340億円 | +約40% |
LBOモデルの構造
キャッシュリッチで安定収益のある企業がMBO(LBO)しやすい構造。
5. 法的枠組み・構造の国際比較
比較したいテーマを選択してください:
株主提案権の比較
| 国 | 要件 | 分析・影響 |
|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 総議決権の1% または 300個 (6ヶ月保有) |
300個(数百万円程度)で提案可能なため、世界的に見てもハードルが非常に低い。 これが日本でアクティビズムが活発化しやすい法的な土台となっている。 |
| 🇺🇸 米国 | $2k-$25k (保有期間による) | 金額基準。比較的容易だが、SECルールによる除外規定(通常業務に関する提案の排除など)の運用がある。 |
| 🇩🇪 ドイツ | 資本金の5% or €500k | 5%の壁は非常に高い。株主提案は少なく、監査役会制度など別のガバナンスが機能。 |
6. 日本の上場企業に対する海外アクティビストファンドの株主提案 – 個別レポート
調査の目的
本稿では、海外アクティビストファンドが日本の上場企業に対して提出した株主提案の内容、提案の背景となる経営課題やコーポレートガバナンス上の問題、そしてファンドが想定するエグジット(価値向上後の回収)戦略を個別に整理する。ニュース報道ではなく、各ファンドが自ら公表した株主提案書やキャンペーンサイト、投資家向け資料を中心に参照し、エビデンスを示すための引用を付した。
1. オアシス・マネジメントによる提案
1.1 花王株式会社(2025年定時株主総会)
独立社外取締役追加・報酬制度改革
提案内容
- オアシスは、花王の取締役会に5名の独立社外取締役を追加選任し、経営報酬制度を見直す株主提案を提出した。プレスリリースによると、グローバルな専門性を有する人材を取締役会に加え、報酬をインセンティブ型に改革することで経営陣の国際競争力を高めるとした。
- 提案は追加的なものであり、既存の取締役を解任するものではないと強調している。
背景・問題意識
オアシスは2023年から花王株を5.2%以上保有し、約18か月にわたり非公開で対話してきた。化粧品ブランドの世界的知名度の低さや、競合他社と比べた収益性の低さ、取締役会が国内外での経験や消費者向けビジネスの専門性を欠いている点を問題視した。
エグジットの目論見
新たな社外取締役の選任と報酬制度改革によって国際競争力を高め、業績改善を通じて株価上昇を狙う。「A Better KAO」計画では成長事業への投資・ブランド力の再構築を通じて企業価値を引き上げると説明しており、これによりファンドの保有株式の評価益獲得を目指す。
1.2 大陽ホールディングス(2025年定時株主総会)
取締役解任議案(佐藤英司氏・高野清文氏)
提案内容
- オアシスは、Oasis Japan Strategic Fund Yを通じて30,000株超(300議決権)を保有する株主として、2名の取締役(佐藤英司氏・高野清文氏)の解任議案を提出した。
- 理由として、支配株主であるDIC株式会社による第三者割当増資により少数株主の持ち分が希薄化したこと、過去に否決されたにもかかわらず高額な役員報酬制度を再提出したこと、医薬品・医療事業への不必要な投資で株主価値を毀損したこと、タイ子会社でのガバナンス事件に対する対応の不十分さなどを挙げている。
背景・問題意識
大陽HDは電子材料事業が主力で、過去数年で医薬・医療関連事業に多額の投資を行った結果、資本効率が低下しROEが低迷している。さらに、親会社であるDICによる第三者割当増資は支配力を強化する一方、少数株主の利益を損ねたとして問題視された。
エグジットの目論見
ガバナンス強化と資本効率向上により企業価値を向上させ、株価が本来の価値に近づいた段階で売却益を得ることを狙う。取締役の交代により第三者割当増資や過度なM&Aを抑制し、事業ポートフォリオを再構築することでROE改善を図る。
1.3 小林製薬株式会社(2026年定時株主総会)
ベニコウジ問題・監査役選任・定款変更・再任反対
提案内容
ベニコウジサプリメントによる健康被害問題を受け、オアシスは特設サイトで複数の議案を提示した。
- 新しい監査役候補の選任 – 川口均氏を監査役に選任し、製品品質や内部統制の改善を図る。
- 定款変更提案 – ① 社外取締役が取締役会を招集し議長を務める権限の付与、② 月次業績や品質管理報告書を社外取締役へ共有する仕組みの導入、③ 品質保証・安全管理体制の徹底と製品回収を可能とする条項を定款に追加する。
- 創業家出身の小林晃太郎氏および片江嘉宏氏の再任に反対 – ベニコウジ事故に対する説明責任不足や、創業家による過剰な影響力を問題視。
背景・問題意識
小林製薬は紅麹サプリメントの健康被害で社会的批判を浴びた。オアシスは、創業家中心の閉鎖的なガバナンスと品質管理の欠如を問題視し、臨時株主総会の招集や株主代表訴訟を通じて責任追及を進めている。品質保証体制の抜本的改善と社外取締役の権限強化が必要と指摘している。
エグジットの目論見
品質問題の再発防止とガバナンス改革により企業の信頼回復と業績回復を狙う。創業家支配を緩め、外部人材の参加を通じて透明性を高めることで株価上昇が期待される。また、監査機能と情報開示を強化することで将来的な買収対象としての魅力を高める可能性がある。
1.4 DIC株式会社(2025年定時株主総会)
関連当事者取引監視・取締役再任反対
提案内容
- オアシスはDICの11.5%を保有する主要株主として、同社の関連当事者取引監視の強化を求める定款変更と、取締役稲生良紀氏の再任に反対する議案を提出した。
- 投資家向け説明資料では、親会社・川村家の影響下で進められてきたM&Aや関連当事者取引が株主価値を毀損していると指摘し、社外取締役による取引監督体制の整備を求めている。
背景・問題意識
DICは化学メーカーで、近年の成長戦略として多額の買収を実施してきたが、十分なシナジーが得られず利益率が低迷した。また、親会社の川村家とその関係会社との取引が透明性を欠いているとの指摘があり、経営陣の監督機能が弱いとされた。
エグジットの目論見
ガバナンス改善による資本効率の向上と、関係会社との取引見直しによる利益率改善を通じて企業価値を高め、株価が割安状態から正常化する段階で株式を売却する狙い。M&Aの抑制や余剰資本の活用も期待される。
2. アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)による提案
2.1 SKカーケン株式会社(2024年定時株主総会)
自社株消却・配当増額
提案内容
ロンドン拠点の投資会社AVIは、SKカーケンの2024年定時株主総会で次の2議案を提案した: (1) 約219万株の自社株のうち90%を消却すること、(2) 1株当たり年間配当を135円から290円へ引き上げ、配当性向50%とすること。
背景・問題意識
SKカーケンは防水材や塗料を製造する企業だが、大量の現預金・投資有価証券を保有し、過去数年にわたり株価は上場来平均を下回っている。創業家である藤井一族が40%超の株式を保有し、取締役会の平均任期が15年と長く、外部の意見を取り入れにくい体質が指摘されている。AVIは余剰資本の削減と株主還元の強化が企業価値向上に不可欠と主張した。
エグジットの目論見
自社株消却により需給を改善し、配当増額によって株価を引き上げることで、投資価値が顕在化した段階で売却益を得ることが狙いと考えられる。資本を有効に活用しない経営体制に改革圧力をかけることで、長期的な企業価値向上を目指す。
2.2 ワコム株式会社(2025年定時株主総会)
Draw Wacom's Future キャンペーン
提案内容
AVIは「Draw Wacom's Future」キャンペーンを立ち上げ、同社の業績低迷を受けて複数の株主提案を提出した。英国のプレスリリースでは、次のような議案が提示された。
- 変革計画監督委員会の設置 – 取締役会が策定する中期経営計画を監視する委員会を設置する。
- 資本市場経験を有する社外取締役の選任 – ファンドは、資本市場に精通した人物を取締役として追加選任するよう求めた。
- 買収提案への対応に関する定款変更 – 経済産業省の「企業買収ガイドライン」に基づき、買収提案への対応プロセスを定款に明記する。
- 配当決定権限の株主への委譲 – 将来の配当額を株主総会で決定できるよう定款を改正する。
- 自己株式取得(50億円規模) – 2026年3月期中に約50億円の自社株買いを実施する。
- 業績連動報酬の指標にTSR(株主総利回り)を採用 – 経営陣の株式報酬制度に総株主利回りを反映させる。
背景・問題意識
ワコムはペンタブレットなどデジタルペン入力機器の世界的メーカーだが、ブランド事業の低迷により2022年以降の業績が計画を大きく下回り、株価もTOPIX指数を下回っている。AVIは最大株主として改善を求め、社外取締役の専門性不足や経営計画の監督機能の弱さを問題視した。
エグジットの目論見
取締役会に資本市場の視点を持ち込むことで、中期経営計画の実効性を高め、配当や自社株買いなど株主還元策を強化して企業価値を引き上げる。これにより株価上昇後に持ち分を売却して回収することが期待される。
3. 3Dインベストメント・パートナーズによる提案
サッポロホールディングス(2025年定時株主総会)
監査委員候補の指名(ポール・ブラフ氏)
提案内容
シンガポール拠点の3Dインベストメント・パートナーズはサッポロHDの約19%を保有し、2025年総会で会計・M&Aに精通するポール・ブラフ氏を監査等委員会設置会社の監査委員に指名する株主提案を提出した。
背景・問題意識
サッポロHDは大手ビールメーカーだが、国内ビール市場の縮小と度重なる海外M&Aの失敗により低収益が続き、ROEは主要飲料企業中最低水準となっている。3Dは2022年から議決権行使や対話を通じて企業改革を求めてきた結果、同社が主力の不動産事業の売却を決定した。しかし、不動産事業は時価総額の70%超を占めるため、売却資金の再投資方法が企業価値を大きく左右するとして、財務・不動産に詳しいブラフ氏を監督委員に加えるよう求めた。
エグジットの目論見
不動産売却による資金を適切に配分し、ビール事業への集中と高付加価値商品の開発を進めることで収益性の向上を狙う。透明な監督体制の下で資本効率を改善し、株価が実力を反映した段階で株式を売却する戦略と考えられる。
4. Hibiki Path Advisorsによる提案
4.1 トモエ建設株式会社(2025年定時株主総会)
制限付株式報酬・DOE・累進配当
提案内容
Hibiki Path Advisorsは、日本のゼネコンであるトモエ建設に対して、以下2点の株主提案を提出した:
- 役員向け制限付株式報酬の導入 – 監査役および社外取締役を除く取締役に対し、年間上限300百万円・25万1千株の制限付株式を付与する報酬制度を導入。ROEとTSRを指標とするパフォーマンス条件を設定する。
- 純資産の10%を目安にしたDOE(配当性向)と累進配当政策の導入 – 配当の決定権を株主総会が持つ形でDOE10%の配当を目標とし、純資産を圧縮してROEを引き上げる。また、現預金や投資有価証券の多さを踏まえ、DOEを徐々に引き上げる累進配当を提案した。
背景・問題意識
トモエ建設は建設工事の利益率が低く、総資産の約30%を持ち合い株式が占めるなど資本効率が低い。経営者の持ち株比率が低く、報酬も上場企業平均に比べて低いことから、株主と経営者の利害一致が弱いと指摘されている。Hibikiは成長投資と株主還元のバランスを取るため、経営者への株式報酬と高いDOEを求めた。
エグジットの目論見
経営者のインセンティブを株価に連動させ、資本効率を改善することで株価上昇を実現し、投資回収を図る。高いDOEにより現金を株主に還元しつつ、資産効率の改善を促す。
4.2 ジャパンピュアケミカル株式会社(JPC)(2025年定時株主総会)
監査等委員会移行反対・取締役再任反対・株主還元強化
提案内容
Hibiki Path Advisorsは、JPCの最大株主として2025年総会で5つの議案を掲げた。ステートメントによれば、以下の通りである。
- 監査等委員会設置会社への移行案への反対 – JPCが提案する監査等委員会設置会社への移行に反対する。
- 渡邊正雄取締役の再任反対 – 長年にわたり事実上の支配権を保持し企業価値向上に貢献しなかった渡邊氏の再任に反対し、他の8名の取締役候補の選任にも反対する(小島友之・黒松桃絵の両氏を除く)。
- 株式報酬制度の拡充(第10号議案) – 社外取締役を除く取締役に対し、株式報酬を強化することで経営者と株主の利害を一致させる。
- 配当決定権限に関する定款変更(第11号議案) – 配当や剰余金の処分を株主総会で決定できるようにする定款変更。
- 株主還元強化(第12号・第13号議案) – ROE改善を目的に、自己株式の取得および配当増額を行う。別途、資産の圧縮(保有有価証券の売却)や大規模な株主還元策を求めている。
背景・問題意識
JPCは半導体向けめっき薬品メーカーで、長年にわたり配当・投資方針が保守的で、純資産の多くを投資有価証券として保持している。最大株主の渡邊氏が事実上経営を支配し、独立性の低い取締役会がこれを支えているとHibikiは批判する。中期経営計画におけるROE目標達成のためには資本を圧縮し、株主還元を大幅に増やす必要があると訴えた。
エグジットの目論見
ガバナンス改革と資本政策の見直しにより、長期間停滞しているJPCの株価を引き上げることが目的。特に巨額の投資有価証券を売却して自己株式取得や配当財源に充てることでROEを改善し、株価上昇後に投資回収を図ると見られる。
5. 考察とまとめ
海外アクティビストファンドは、日本企業の株主価値向上を目的にさまざまな提案を行っている。共通しているのは、
- (1) ガバナンスの独立性強化:創業家や親会社の支配からの脱却、社外取締役の増員、監督機能の強化、
- (2) 資本効率の改善:自社株の消却や取得、過剰な現金・投資有価証券の削減、配当の増額やDOE導入、
- (3) 経営陣のインセンティブ改革:株式報酬制度の導入・拡充、業績連動指標の採用、である。
これらを通じて企業価値を高め、株価を適正水準へ押し上げることでエグジットを図る戦略が読み取れる。
一方で、日本企業側は取締役会の保守性や創業家の影響力、安定株主の存在から改革が進みにくく、アクティビストとの対立が継続するケースも多い。投資家による提案が企業や他の株主にどこまで支持されるかは、企業の業績や社会的背景に左右される。今後も、提案の採否とその後の企業行動を追跡し、アクティビストのエグジット戦略がどのように実現されるか注視したい。